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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)10487号 判決

《住所省略》

原告 株式会社 森脇文庫

右代表者代表取締役 森脇將光

右訴訟代理人弁護士 大山忠市

同 大山皓史

《住所省略》

被告 三井不動産株式会社 (旧商号 朝日土地興業株式会社)

右代表者代表取締役 坪井東

右訴訟代理人弁護士 吉田太郎

主文

一  原告と被告間の東京地方裁判所昭和四三年(手ワ)第一八六二号約束手形金請求事件について同裁判所が昭和四三年九月五日言渡した手形判決を取消す。

二  原告の請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は原告に対し、金一億円およびこれに対する昭和四三年四月二八日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告

主文第二、三項と同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、左記のとおり手形要件が記載された約束手形一通(以下「本件手形」という。)を所持している。

金額 金一億円

支払期日 昭和四〇年七月四日

支払地 東京都中央区

振出地 同右

支払場所 株式会社埼玉銀行日本橋支店

振出日 昭和四〇年五月六日

振出人 被告

受取人 原告

2  被告(以下「朝日土地」ともいう。)は、本件手形を振出した。

3  よって、原告は被告に対し、本件手形金一億円およびこれに対する本訴状送達日の翌日である昭和四三年四月二八日から完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

全部認める。

三  抗弁

1  (詐欺に基づく本件手形振出の取消)

本件手形は、訴外吹原弘宣(以下「吹原」という。)の詐欺行為により被告が振出した約束手形の書替手形であるから、その振出行為を取消す。

(一) 被告は、訴外吹原産業株式会社(以下「吹原産業」という。)の代表取締役である吹原により、約束手形四通(額面合計金八億円)を次のような経緯で詐取された。

吹原は、原告に対する多額の債務の返済と資金繰りに窮した末、上場会社、有名人らから約束手形等を騙取しようと企て、昭和三九年八月下旬ころ、吹原産業において、被告会社常務取締役丹澤利晃および同社代表取締役丹澤善利に対し、その事実や意思も能力もないのに、「自民党池田派の政界実力者の工作によって銀行に数十億の融資枠を持っているが自分の会社の業態から優良な手形が入手できないため右の融資枠を十分利用できず枠が余っているので、信用の厚い一流会社にこれを利用していただきたい。ついては貴社の手形を貸していただけたら右の枠で金融が得られるから、半金は銀行利息で二年間貴社に融資し、あとの半金は当方で使わせて貰うことにしたい。当方で使う分に対しては、見返りに支払期日の一〇日早い当社の手形を差入れ、確実な担保も提供する。銀行の方でも八億円位割引いてやるといっている。」などと偽りを述べ、その旨同人らを誤信させたうえ、同月二七日ころ、吹原産業において、丹澤利晃から吹原産業宛に被告振出にかかる約束手形四通(手形金額  金二億八五〇〇万円、  金二億二二〇〇万円  金一億二八〇〇万円、  金一億六五〇〇万円以上額面合計金八億円、いずれも満期は昭和四〇年二月二七日、振出日は白地、支払場所は株式会社埼玉銀行日本橋支店―以下単に「手形」「手形」等という。)の交付を受けてこれを騙取したものである(なお、被告は吹原から同様に昭和三九年九月一六日ころに約束手形二通額面合計金一億六五〇〇万円、同月二五日ころに約束手形二通額面合計金三億六〇〇〇万円および被告会社株式四〇〇万株の株券時価合計金七億二〇〇〇万円相当を騙取された。)。

(二) 本件手形は、右手形を吹原の申出により、被告において、昭和三九年九月一一日これを手形額面金額金一億円および手形額面金額金二八〇〇万円の二通(満期をいずれも昭和四〇年三月一〇日と変更した外、その他の手形要件は手形に同じ。)に書替え、右手形(以下「本件書替前の旧手形」ともいう。)について、その後原、被告間で昭和四〇年三月九日、満期のみを「同年五月六日」に、更に同年五月一日、右満期のみを「同年七月四日」にそれぞれ変更して書替えたものである。

(三) 被告は、昭和五七年九月一六日、吹原産業の吹原に対し、内容証明郵便をもって右手形および手形の各手形振出行為を吹原の詐欺に基づくものであるとして取消す旨の意思表示をなし、右意思表示は同月一七日吹原産業に到達した。

2  (右1の(一)についての原告の悪意)

原告は、吹原と共謀して右1の(一)の詐欺行為をしたか、もしくは、昭和三九年九月一一日、前記手形が吹原によって詐取された前記手形の書替手形であり被告を害することを知りながら、あえてこれを取得したものである。

すなわち、

(一) 吹原は被告等一流会社の手形詐取をはじめる前である昭和三九年五月末ころ、原告会社代表取締役森脇将光(以下「森脇」という。)から、「いい手形があれば、銀行で割るといって引き出してくれば、何とかバックと相談する。バックに一割でも旧債に入れるということなら、いくらでも割ってくれるだろう」「アート(編機)のような手形では駄目だ、もっと一流上場会社か知名人の手形を持ってきなさい、先方にいくらか金を渡しておけば手形責任がでてくるから、後始末は自分がしてやる。引き出した手形は何回も切替えさせるとよい」などといわれ、吹原は森脇からの右の如き示唆ないし慫慂を受けて被告に本件書替前の旧手形を振出させた。

(二) 吹原および森脇らに対する詐欺等被告事件の控訴審判決(東京高等裁判所昭和四七年(う)第一四〇〇号、昭和五一年一〇月二二日宣告、同判決は昭和五五年九月最高裁判所において確定している。以下、「高裁刑事判決」という。)には次のような記載がある。

『1 押一一〇号

(1) 押一一〇号にはつぎのような記載がある。

「冠省 株券は数をそろえて居りますので、肇から後から直接そちらえ御届け致します。あと三十分位で行くと思います。手形だけは別に私がさきに持帰りましたから、別に使之者え持参致させました。

注意 銀行で割引いたことになっているからこの手形に吹原産業の宛名を入れ、裏書をして裏書の上に裏書上の責任を負わずと書いて捺印して、領収欄に領収印を押して引渡さるべきでせう。

右要用まで

昭和三十九年拾壱月拾壱日

森脇将光

吹原社長殿

侍史」

そして、右記載が全文森脇の自筆であることと、この書面が昭和三九年一一月一一日森脇から吹原のもとへ届けられたことは森脇の認めるところである(二冊)。

(2) 森脇は右書面が作成された経緯と趣旨について、「一一月一一日吹原を介して朝日土地に同社振出一億六〇〇〇万円の手形と一五〇万株の株券を返す際、吹原が、『あの手形は社長の方で銀行から再担保して割引かれませんでしたか』と聞いたので、金が必要なら割引こうとも思ったがそれほど必要でもなかったので割引かなかったと話したところ、吹原は、『朝日土地のいうには初めからあの株式は自社株になっているから私の資金先であちこち廻されると困るからといっていたので、私は自分の資金バックではあちこち廻すことなく銀行で割引くのだから心配するなといっておきましたから社長が割引かずにいたなら誤解を受けるかもしれませんね。どういうふうに返したらいいでしょうか』と聞くので、自分の方では株式担保で吹原産業の手形を割引き、その副担保といった意味で朝日土地の手形を差入れてもらったのだから自分が銀行で割引いていようといまいと誤解を招くことは何もないと思ったから、そのまま返したって差支えないことですよといっておいたが、しばらくして運転手に手形を届けさせるとき、さっき吹原が話したことを思い出し老婆心までに後日いかなる観点からも吹原が誤解や損害を受けることのないようにと思って走り書きで手紙を書き、最後注意としてそのことを書き添えた」旨供述している(二・一〇冊)。

(3) そこで、右森脇の供述が信用できるものであるか否かについて検討する。

まず、森脇は、捜査段階において、「注意の欄はこの朝日土地の手形を割引くに当って前もって吹原と、朝日土地の手形は自分の方で金の都合が出来ないときには銀行で割引いてもらってその金で割引してあげようと、つまり私の方に割引を依頼された手形を私の方の資金の都合で銀行に再割引に出すと話していたので、銀行で割引いたことになっているから云々の言葉を入れた。この朝日土地の手形については朝日土地の株券三五〇万株が担保に入っていたので、吹原と銀行で再割引するかもしれないと話合っていたのである。右の言葉に続く注意は、手形振出人である朝日土地に手形を返すに当って、担保株券が一旦吹原に入れられそれが再度私に入れられていたので、私はその様な場合の手形の取扱いの習慣的実情にしたがって宛名を吹原産業と書入れ、裏書の上に裏書上の責任を負わずと書入れ、裏の末尾のところにある領収欄に吹原産業の領収印を押して、この手形を返した後において吹原産業が手形上の責任を負うことがない様に注意してやったのです」という趣意の供述をしている(39・7・2)。右の供述は、森脇の公判供述にみられるような、一一月一一日朝日土地に手形を返すにあたって森脇と吹原との間に交されたという会話についてはまったくふれられておらず、もっぱら、当初手形を割引くに際して森脇が述べたことが原因となって、「銀行で割引いたことになっているから」との記載が出て来たという説明になっており、森脇が自ら書いた同じ証拠物についての説明が、捜査段階におけるそれと公判段階におけるそれと異っているとみなければならない。つぎに吹原は、森脇の前記(2)の公判供述に述べられているようなことを森脇にいったことはないと供述している(八六)ところ、証人丹沢善利四四、同丹沢利晃四三、同六車武信四六によると、一一月一一日当時はすでに吹原が丹沢善利、六車の両名に対し、朝日土地の手形は森脇のところに行っていると自白した後であるから、森脇がいうようなことを吹原が森脇に対し述べるということは考えられない。このことは、一一月一一日に吹原を通じて朝日土地へ返還された一億六〇〇〇万円の約束手形(押一〇八号)の裏面の記載から明らかなように、吹原が森脇の注意にしたがった記載等をしていないことからも裏付けられる。

吹原の右の供述は信用できると考えられる。さらに森脇は、この書面を書いた理由の一つとして吹原が損害を受けることのないようにしてやるつもりもあったというが、もともと裏書のしていない状態のまま手形を返せば足りるのに裏書をさせるから危険が生ずるのであり、また、手形の返還を受けた朝日土地がそれをそのまま再度流通に置くことは普通は考えられないから、吹原が損害を受けることがないようにしてやるつもりであったとの弁明は採ることができない。

以上のほか、かりに吹原が森脇に対して森脇のいうとおりのことを述べたとしても、吹原の言によれば、朝日土地はたとえ再割引のために銀行に持込まれるのであっても吹原の資金先から他へ廻されることをきらっているのであるから、銀行で割引いた事実がないのにわざわざ朝日土地のいやがるような虚偽の事実を構えて銀行で割引いたように装う必要はまったく考えられないこと、注意の二文字が大きく目立ちその右側に二重丸がしてあること、わざわざ書面を書いて届けた点などをも総合して考察すると、森脇の前記供述は信用性に乏しく、この書面は、森脇において吹原が朝日土地に対して手形は銀行で割引くと虚言を弄していることを認識し、手形面に工作をして返すよう注意したものであると認めるのが相当である。

(4) 以上によれば、押一一〇号の書面は、森脇において吹原が朝日土地に対して、手形は銀行で割引く旨の虚言を弄していることを認識していたか、遅くともこの書面を作成した日にそれを認識したことを示しているというべきである。』

(三) 吹原は、昭和三九年九月末当時、原告に対し金七〇億円余の多額の債務を負担しており、森脇は当時右吹原の莫大な負債の回収に苦慮していた。そして、森脇は右巨債回収のため被告振出の前記の手形を割引き、その後吹原の持込んだ東洋精糖株式会社(同年一一月六日、同月一〇日持込)や藤山愛一郎(同月二一日持込)外各社の手形について、いずれも振出確認もしないままこれを割引いた。

(四) 森脇は、昭和三七年七月ころ、吹原の伊藤忠に対する詐欺事件の直後において、吹原が手形詐欺事件で新聞沙汰になったことのあること、同人には犯罪の前科があることまで調査済であったのであるから、被告等振出の手形の割引に当って、金融業者としては各手形の振出人に振出確認等の充分な調査をするのが当然であるのに、森脇はこれをしていない。

殊に、森脇は昭和二九年ころ、大橋富重、岩久保仁らの騙取手形を割引いた事件で取調を受けた際、爾後は念には念を入れて手形の発行確認をし、詐欺手形を取得するような間違いを起さないことを誓約する旨の上申書を提出していることからも、右誓約に背き、振出確認しなかったのは、吹原の手形詐取を承知していたことの証左である。

3  (権利濫用の抗弁)

本件書換前の旧手形は、抗弁1に既述したとおり、被告が吹原の手形詐取を理由としてその振出を取消したから、被告と吹原産業との間の手形振出の原因関係は消滅した。一方、原告は吹原から本件書換前の旧手形を割引いた際、金二七一五万円の利息は別途に受取りながら元金一億円は割引名下に日銀券で貸付けたが、即日返還を受け、二日後にその全額を吹原産業に対する他の貸付金債務の内入弁済に当てたのであるから、本件書換前の旧手形の原因関係たる金銭消費貸借は発生せず、原告は手形上の権利を行使すべき実質的理由を有しない。従って、原告がいわゆる手残り手形を有することを奇貨として手形上の権利を行使するのは権利の濫用であって、許されない。

4  (融通手形の抗弁)

原告は、本件書換前の旧手形が金融を得る目的で被告から吹原産業に振出された融通手形であることを知りながら、これを割引依頼人たる吹原の自己に対する旧債の返済に充当したものであるから、手形法一七条但書の害意ある取得者に該当する。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の(一)事実は認める。

2  同1の(二)の事実のうち、本件手形は、元々満期昭和四〇年三月一〇日、振出日昭和三九年九月一一日、振出地および支払地東京都中央区、支払場所株式会社埼玉銀行日本橋支店、受取人兼第一裏書人吹原産業との被告振出手形(以下「原告主張書替前手形」という。)を昭和四〇年三月九日原、被告間合意の上で、満期昭和四〇年五月六日、受取人白地、その他の要件は右手形と同じ手形に書替え、更にその手形を昭和四〇年五月一日原、被告間合意の上で、書替えたものであることは認めるが、その余の事実は不知、本件手形が吹原の騙取した手形の書換手形を更に書替えた手形であることは否認する。

3  同1の(三)の事実は知らない。

4  同2の事実中、原告が昭和三九年九月一一日に原告主張書換前の手形を吹原産業から裏書譲渡を受けたことは認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。

5  同3ないし4の各事実は否認する。

五  被告の主張に対する反論

1  書換手形の主張について

昭和四〇年三月九日被告の丹沢善利社長と訴外児玉誉士夫(以下「児玉」という)が直接原告会社に来て、右丹沢から森脇に対し、原告主張本件書換前手形の書換を依頼した際、同社長から今後書換えた被告振出手形の取扱いは、吹原に関係なく被告の原告に対する直接債務として、直接取引に置換えてもらいたいとの要請があり、原告は右要請を入れ、原告主張書換前手形の書換に応じ、帳簿上も原告と被告間の直接取引として処理したものである。また、被告と吹原産業間において、原告主張書換前手形を含む約束手形の割引金の精算が児玉の斡旋で昭和四〇年三月一日ころから行なわれ、同月九日ころまでに吹原産業が被告に対し、手形割引不足金に代えて不動産、書画、骨董品を代物弁済として譲渡し、もって被告と吹原産業間の手形の振出交付に伴う原因関係の円満な解決をみていることからも、本件手形が書換前の手形と関係のないことが明らかである。

2  押一一〇号書面について

同書面作成経緯については、森脇が前記三2(二)(2)記載の刑事事件公判供述中で、述べているとおりであるが、同三2(二)(3)及び(4)記載の高裁刑事判決の判断は以下の理由により誤りであり、森脇の供述は信用できる。

イ 捜査段階と公判段階における当事者の攻撃防御方法の差異に照らせば、森脇の供述の信用性を失わせるほどの相違とは言えない。

ロ 吹原の供述は、当初は自己の単独犯行と認めていたものであって、捜査段階から変遷があり、信用できない。

ハ 吹原は、森脇に対して手形を詐取したことは最後まで言わなかった。

他方、丹沢、六車に対してなした告白の内容は「森脇に預けているが割引は未だしていない」というものであり、森脇に対する手前、森脇の供述するような内容を述べる必要があった。

ニ 丹沢、六車に右告白を信用させるには、右約束手形には何らの記載をしないままにしておく必要があったところ、森脇から返還を受けた手形が吹原が交付を受けたときと同一状態のままであったので、これを奇貨として押一一〇号の注意書のようにしなかったに過ぎない。

ホ 吹原が手形を朝日土地社内における伝票処理のミスで吹原を交付先とした伝票が残される可能性ないし手形が盗難や紛失に会う危険性もあるところ、森脇は、右手形は金一億六〇〇〇万円の小切手と引替えに吹原から朝日土地に返還されるものと考えていたのであるから、吹原と朝日土地との間に手形に絡む紛争の発生を考えると、森脇が、吹原産業に対して、右のような危険を避けさせるために前記のような忠告をすることは自然である。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因事実すなわち原告が本件手形を所持していることおよび被告が本件手形を振出したことは、当事者間に争いがない。そこで、以下被告の抗弁について判断する。

二  抗弁1(詐欺に基づく本件手形振出の取消)について

1  抗弁1の(一)の事実、すなわち被告は、吹原産業の代表取締役である吹原により約束手形四通(額面合計金八億円)を次のような経緯で詐取されたこと――吹原は、原告に対する多額の債務の返済と資金繰りに窮した末、上場会社等から約束手形等を騙取しようと企て、昭和三九年八月下旬ころ、吹原産業において、被告会社常務取締役丹澤利晃および同社代表取締役丹澤善利(以下「丹澤社長」ともいう。)に対し、「自分は自民党池田派の実力者の工作で銀行に数十億円の融資枠を持っているが、信用の厚い一流会社に利用してもらいたい。貴社の手形を貸してもらえば融資が受けられるから、半金は銀行利息で二年間貴社に融資し、残り半分は当方で使いたい。こちらの分は見返りに手形を担保に出す。」などと偽りを述べ、その旨同人らを誤信させたうえ、同月二七日ころ、吹原産業において、丹澤利晃から吹原産業宛に被告振出にかかる、、および手形の四通の約束手形(以上額面合計金八億円)の交付を受けてこれを騙取したものである(なお、吹原は被告から同様に昭和三九年九月一六日ころに約束手形二通額面合計金一億六五〇〇万円、同月二五日ころに約束手形二通額面合計金三億六〇〇〇万円および被告会社株式四〇〇万株の株券時価合計金七億二〇〇〇万円相当を騙取した。――以上の事実については当事者間に争いがない。

2  次に、抗弁1の(二)の事実(本件手形振出に至る手形書替等の経緯)について検討する。

《証拠省略》によれば、抗弁1の(二)の事実、すなわち被告が吹原から騙取された約束手形の一通である手形は、吹原の申出により、被告において昭和三九年九月一一日これをおよび手形に書替えられ、この手形(額面金額金一億円、本件書替前の旧手形)は、その後原、被告間で昭和四〇年三月九日、満期のみを「同年五月六日」に、更に同年五月一日、右満期のみを「同年七月四日」にそれぞれ変更して書替えられ、この最後の約束手形が本件手形であること、つまり「原告主張書替前手形」と「本件書替前の旧手形」とは同一手形であること、以上の事実が認められる(原告主張書替前手形が原、被告間の合意の上で認定事実の如く二回に亘り書替られたことについては原告の自認するところである。なお、被告が吹原から騙取された、および手形もそれぞれ書替、分割されたが、その詳細は本件手形判決添付の「別表」記載のとおりである。)。

ところで、原告は、昭和四〇年三月九日丹澤社長と児玉が原告会社に来て、本件書替前の旧手形の書替依頼をした際、同社長は、原告に対し今後書替えた被告振出手形の取り扱いは、被告の原告に対する直接取引に置き換えてもらいたい旨要請し、原告はこれを容れ、右書替に応じ、帳簿上も原、被告間の直接取引として処理したと主張し、また、そのころ児玉の斡旋によって被告と吹原産業間において、吹原産業が被告に対し、手形割引不足金に代えて不動産、書画等を代物弁済として譲渡し、両者間で手形の振出交付に伴う原因関係の円満な解決をみていることも被告が右のとおり直接取引の申入をしたことの証左である旨主張する。よって案ずるに、被告と吹原産業間において、児玉の斡旋により、被告が吹原に対して割引依頼した約束手形についての精算として、被告は、昭和四〇年三月上旬ころ吹原産業から不動産、書画、宝石を受けとったことは当事者間に争いがないが、証人丹澤利晃の証言によれば、右精算には本件手形分(正確には本件書替前の旧手形分)は含まれていないことが認められ、右認定を覆すに足りる的確な証拠はない。また、《証拠省略》によれば、本件書替前の旧手形が原告のところにあることを知った被告は、一旦吹原を介して書替方の交渉にあたろうとしたが、吹原が再び書替手形を他に廻す恐れがあったため、丹澤社長をして昭和四〇年三月九日および同年五月一日書替手形と利息とを直接原告に持って行って取敢ず右手形を呈示されることによる不渡りの危険を回避するべく、原告方に赴き、前記認定のとおり書替をしたこと、以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。そして原告主張の如く「直接取引」云々の事実については、原告代表者はこの主張に副う供述をし、《証拠省略》によれば、原告と吹原産業の両者間で昭和四〇年三月一五日付で作成した「相互債権債務確認契約書」には、本件手形についての債権債務関係は全く記載されていないこと、原告の帳簿上も本件手形分は原、被告間の直接取引分として処理されていることが認められるが、これは前掲《証拠省略》と対比すると直ちに措信し難く、他に右原告主張事実を認めるに足りる的確な証拠はなく、仮に丹澤社長が「直接取引」について言及したことが事実としても、これは右に認定したように本件書替前の旧手形の裏書人であった吹原産業を書替手形では省略し、被告から原告への直接振出手形としたという点にのみ意味があるというべきであって、被告が本件書替前の旧手形とその書替手形は実質的に全く別物として振出す旨の特段の意思表示をしたとみるべき証拠は本件全記録を精査しても全くないというべきである。

したがって、手形債務者たる被告は、本件書替前の旧手形について存した人的抗弁事由を書替後の手形(満期昭和四〇年五月六日)およびそのまた書替手形である本件手形について主張できるというべきである。

3  《証拠省略》によれば、抗弁1の(三)の事実(被告が昭和五七年九月一六日吹原産業の吹原に対しおよび手形の各手形振出行為を吹原の詐欺に基づくものであるとして取消す旨の意思表示は同月一七日吹原産業に到達したこと)が認められる。

三  そこで進んで抗弁2の事実(原告の悪意)について検討する。

1  《証拠省略》を総合すると、次の各事実が認められる。

(一)  吹原は、昭和三九年八月当時、原告に対し、数十億円にも上ぼる多額の債務を負い、これの返済は円滑になされておらず、滞っていた。

(二)  吹原は、本件にあらわれた被告振出の約束手形の外にも、次のとおりそれぞれ本件と同様に「吹原産業は銀行に多額の融資枠を持っているのでこれを用いて融資を受けられるようにしてあげる。」などと偽りを述べて、以下記載の約束手形、小切手等を騙取した。

(1) 昭和三九年一一月六日ころ、訴外東洋精糖株式会社(以下「東洋精糖」という。)から同社振出の約束手形一〇通額面合計金五億円および同社代表取締役秋山利郎所有の不動産の登記済権利証など、また同月一〇日ころ、同社から同社振出小切手二通額面合計金二億円。

(2) 同年一一月一八日ころ、訴外藤山愛一郎(以下「藤山」という。)らから同人振出の約束手形五通額面合計金五億円、また同年一二月二六日ころ、同人から同人所有の不動産の登記済権利証など。

(3) 同年一二月九日ころ、訴外株式会社間組(以下「間組」という。)から同社振出の約束手形七通額面合計金一〇億円。

(4) 昭和四〇年二月二〇日ころおよび同月二二日ころ、訴外市村清から同人および同人が当時代表取締役であった株式会社三愛の共同振出の約束手形六通額面合計金六億円。

(三)  吹原は、右(二)のとおり騙取した約束手形等を騙取後直ちに原告に譲渡ないし担保差入れた。即ち、原告は、昭和三九年九月九日ころ、いずれも被告振出にかかる額面金一億四〇〇万円、満期昭和四〇年二月二七日の約束手形(手形を書替、分割した一通、本件手形判決添付別表の①手形)と額面金一億一五〇〇万円、満期昭和四〇年三月五日の約束手形(手形を書替、分割した一通、本件手形判決添付別表の②手形)を、同月一一日、本件書替前の旧手形を、同月一八日ころ、いずれも被告振出にかかる額面金八〇〇〇万円、満期昭和三九年一二月二〇日の約束手形と額面金八五〇〇万円、満期右同日の約束手形(以上二通は本件手形判決添付別表の第二次発行分手形)を、同月二六日ころ、いずれも被告振出にかかる額面金一億六〇〇〇万円、満期昭和三九年一二月二三日の約束手形と額面金二億円、満期右同日の約束手形(以上二通は本件手形判決添付別表の第三次発行分)と被告株券三五〇万株を、更に、東洋精糖、秋山利郎、藤山、間組、市村清等振出の約束手形、小切手、登記済権利証等をいずれも前記(二)の吹原騙取の直後ころ、いずれも吹原から手形割引ないし貸付金の担保として取得した(原告が、原告主張書替前手形すなわち本件書替前の旧手形を昭和三九年九月一一日に取得したことはその自認するところである。)。

(四)  ところで、原告は、右のとおり吹原から各手形を割引ないし担保名下に取得した際、一応吹原に対して割引金ないし貸付金名下に金員を交付したが、その際、吹原の原告に対する旧債務やその利息等の支払のため吹原に小切手を振出させてその決済を余儀なくさせることなどにより実質的には右交付金の多くを原告に返還させ吹原の手もとには残らないようにした。そして、原告が吹原から本件書替前の旧手形を割引いた際にも、吹原から別途に利息を入金させ、なお右割引金を仮受金として保留し、その後にこれを他の貸付金の内入弁済に充当した。

(五)  原告代表者である森脇は、巨額の負債を抱えその返済も思うにまかせない吹原が極めて高額の手形を多数枚所持していることについて不審の念を抱いてしかるべきであるのに、本件書替前の旧手形を含む前記(二)、(三)記載の約束手形等を吹原から取得するにあたり、被告や東洋精糖、間組等の振出人に対して直接に手形の振出などについての確認行為を一切行なわず、右手形等を吹原がいかなる原因に基づいて各振出人から取得したのであるかについても特段の調査をしなかった。

(六)  吹原は、前記(三)のように昭和三九年九月二六日ころ、被告振出の約束手形二通額面合計金三億六〇〇〇万円と被告株券三五〇万株を原告に交付したが、被告は、これによる融資期限を過ぎた同年一〇月初旬ころになっても、融資がなかなか実行されず、また吹原に騙取された約束手形が当初の吹原との間の銀行で割り引くだけという約束と異なり市中に出回っていることを知り、吹原に対してこれらの点について厳しく追及し、ことに右の金額合計三億六〇〇〇万円の約束手形と株券四〇〇万株の返還を強く要求したところ、吹原は、同月下旬、被告の当時の代表取締役丹沢善利及び同人の知人である六車武信に「手形は森脇のところにいっているが、まだ割引はしていない。」と述べたので、右丹沢及び六車は非常に驚き、さらに厳しく右約束手形及び株券の返還を請求した。そこで、吹原は、同年一一月一〇日に前記のように東洋精糖から騙取した小切手(金額合計二億円)を森脇に割り引いてもらい、被告との間で右割引金のうち一億六〇〇〇万円を東京銀行本店扱いの日銀小切手と交換し、この日銀小切手と交換に原告から右被告の約束手形と株券を返してもらい、これを被告に返還することにした。原告は、同年一一月一一日、右日銀小切手と交換に右約束手形のうち金額一億六〇〇〇万円のもの一通(受取人欄及び裏書欄はいずれも何らの記入もされていなかった。)及び右株券のうち一五〇万株を吹原を介して被告に返還した。右返還の際、森脇は、約束手形を使いの者に持たせて吹原に返還したが、その際に吹原に右約束手形とあわせて書面を届けた。右の書面は全文森脇の自筆にかかるものであり、次のような記載がある。

「冠省 株券は数をそろえて居りますので、肇から後から直接そちらえ御届け致します。あと三十分位で行くと思います。手形だけは別に私がさきに持帰りましたから、別に使之者え持参致させました。

注意 銀行で割引いたことになっているからこの手形に吹原産業の宛名を入れ、裏書をして裏書の上に裏書上の責任を負わずと書いて捺印して、領収欄に領収印を押して引渡さるべきでせう。

右要用まで

昭和三十九年拾壱月拾壱日

森脇将光

吹原社長殿

侍史」

以上の各事実が認められ、《証拠判断省略》、他に右認定を左右するに足りる的確な証拠はない。

2  右認定事実に基づいて以下検討を加える。

(一)  一般に、被告や前記認定の東洋精糖、間組、藤山等のいわゆる一流企業や有名人にとっては、いわゆる市中の高利金融業者から金融を受けること、その振出手形等が同様の金融業者を転々流通することはこれらの者の信用を失墜させるものとして嫌われることは公知の事実であるところ、当時吹原は極めて巨額の負債を原告に対して負っていて返済が滞っていたのにもかかわらず、被告等の一流企業の振出にかかる前記のような極めて高額な約束手形等多数枚を、その吹原から、原告が直接に振出人に対して確認もせず、また振出の原因調査を全く行なわずに取得してはこれに見合う現金を現実には交付することなく、吹原に対する割引金や貸付金の多くを同人の自己に対する債務の弁済に充てさせることを何回も繰り返して行なったという原告と吹原間の取引は、通常の手形割引、手形貸付等の取引とは到底いい難い、奇異な取引の側面があったといわざるを得ない。なお、《証拠省略》によれば、原告は吹原が持参した被告振出にかかる額面金一万円の少額小切手を銀行に振込んで異議なく決済されたのを確認し、右小切手と同じ被告の記名印と取引印が押捺されている本件書替前の旧手形等を割引取得して、被告に直接振出確認することに代えたことが認められるけれども、既に認定説示した吹原の原告に対する負債状況および本件書替前の旧手形は極めて高額で被告のようないわゆる一流企業振出手形であること等に鑑みると、右のような確認手続で十分であるなどと到底いうことができない。

(二)  右1の(六)において認定した書面について

右書面は森脇の自筆にかかる吹原宛の文面であり、その注意書は原告が昭和三九年一一月一一日に被告に返還する目的で吹原に交付した被告振出の額面金一億六〇〇〇万円の約束手形一通について書かれたものであるところ、右手形は銀行で割り引かれたことは一度もなく、森脇もこのことを知っていたと推認されること、右書面は右手形が一旦銀行で割り引かれたように仮装することの指示をその内容の一とするものであること、右書面は「注意」の二文字が大きく目立ちその横に二重丸がしてあること、森脇がわざわざ右書面を書いて吹原に届けたことを考えると、森脇が右書面を自ら書いたことは、原告代表者である森脇が当時吹原が被告に対して「銀行から融資を受けられるようにしてやるから」などと虚言を弄して同社から右手形を騙取したことを知っていたことを強く推認させるものである。

原告は、右書面から森脇の悪意を推認することはできない旨反論するので検討する。

(1) 原告は、吹原が右手形を返す際森脇に「あの手形は社長の方で銀行から再担保して割引かれませんでしたか。被告のいうには初めからあの株式は自社株になっているから私の資金先であちこち廻されると困るといっていたので、私は自分の資金バックではあちこち廻すことなく銀行で割引くのだから心配するなといっておきましたから社長が割引かずにいたなら誤解を受けるかもしれませんね。どういうふうにして返したらいいでしょうか。」と言ったことを契機として右書面が作成された旨主張する。

しかし、吹原は右手形の返還に先立ち昭和三九年一〇月下旬に被告の丹澤社長らに対して右手形が森脇のところにいっている旨を既に告白していたものであり、右告白の内容が森脇によって割引いて貰っていたものであるとしても或いは単に預っていたに過ぎないとしても、いずれにしても、右手形の返還を約束していた吹原において銀行で割引いた事実があるように仮装すべき理由は全くないこと、一方、《証拠省略》中、手形詐欺について森脇と共謀した旨の供述部分が信用できないとしても、原告の主張する右手形返還の際の吹原発言は右共謀の場面とは局面を異にする場面における発言であってその信用性については別個の評価をすべきものであること、後記(3)記載のとおり森脇の供述の信用性については疑問の余地があること等を考えると、当時原告主張の吹原発言はなかったとする吹原供述は信用でき、結局、かかる発言はなかったものと認めるのが相当である。

(2) 原告は、後日いかなる観点からも吹原が誤解や損害を受けることのないようにすることが右書面の作成の動機であったとも主張する。

しかし、まず右動機の前提をなす前記吹原発言の存在が認められない以上、右書面の記載内容からみて被告に対して右手形が銀行で割り引かれたかのように仮装すること以外にその作成の動機があったとは考え難い。また、吹原が誤解や損害を受けないようにするためにはなぜことさらに右手形面上に右書面の指示に従った記載をしなければならないかの理由は必ずしも明らかでないばかりか、森脇が手形取引に習熟している吹原に対して原告主張のような被告の社内経理処理上のミスなどによる同社と吹原間の紛争の発生や右手形を被告に返還した後の右手形の盗難紛失というような稀有の瑣末な事柄を考慮して(尤も原告も「老婆心」であることを自認しているが)吹原が後日いかなる誤解や損害をも受けないために同人に対して注意を与えるということ自体不自然であり、森脇が右手形に関する取引について何らやましいところがないと考えていたとすればなおさら不自然である。

したがって、森脇が原告主張のような動機で右書面を作成したものとは認められず、右書面の作成動機は、森脇において被告に対して右手形が銀行で割り引かれたかのように仮装することにあったと認めるのが相当である。

(3) 被告の主張に対する反論2イ記載の原告の主張について考えると、森脇の同人らに対する詐欺等被疑被告事件における供述に、捜査段階と公判段階で抗弁2の(二)記載のような相違のあることは、《証拠省略》により明らかであり、原告の右主張を十分考慮に入れても、森脇の供述の信用性を考える上で無視できない程度の大きさを持つものというべきである。

そうすると、原告の反論はいずれも理由がない。

したがって、森脇は、右書面を作成した日である昭和三九年一一月一一日までには、遅くとも、吹原が被告に対して前記認定のとおり虚言を弄して同社から手形を騙取したことを知っていたものと認められる。

3  以上の認定各事実およびそれに基づく検討の結果ならびに弁論の全趣旨を総合すると、原告代表者である森脇は、特段の事情がない限り、被告振出手形の割引に関与した最初から、吹原が被告に対して虚言を弄して同社振出手形を騙取したものであることを認識していたものと推認するのが相当であり、右特段の事情が存在するとの証拠は本件全証拠を精査しても認め難い。したがって、森脇は、昭和三九年九月九日ころの第一回目の被告振出手形の割引取得時(遅くとも同月一一日の本件書替前の旧手形の割引取得時まで)には、それが騙取手形であることを認識していたものと推認するのが相当である。

ところで、右のように認定すると、昭和三九年一一月一一日をひとつの境目とし、それ以後に森脇が手形等を取得した事案のみにつき、賍物故買もしくは賍物収受罪の成立を認めた高裁刑事判決と一見抵触するかの如くであるが、一般に刑事裁判の事案とその基礎を同じくする民事裁判とが別異の結論を出すことも止むを得ない場合がある。もっとも高裁刑事判決においても、「前記の書面は、森脇において吹原が被告に対して、手形は銀行で割引く旨の虚言を弄うしていることを認識していたか、遅くともこの書面を作成した日にそれを認識したことを示しているというべきである。」と判示し、森脇が右認識した日を明確にしていないのに過ぎず、刑事裁判における証明と民事裁判におけるそれとの差異を考慮すれば、前記の当裁判所の認定は、高裁の刑事判決の認定と矛盾するものではなく、民事裁判の立場からこれを一歩進めて認定したまでである。

4  そうすると、原告は、本件書替前の旧手形が吹原が被告から騙取した手形(正確には騙取した手形の書替手形)であることを知りながら、これを取得したものであるから、手形法一七条但し書所定の悪意の手形所持人に該当し、右手形の書替手形である本件手形についても、原告は、被告が吹原に対して有する詐欺による手形振出の取消の抗弁の対抗を受けるものというべきである。

5  よって、被告のこの点での抗弁は理由がある。

四  以上の次第であるから、被告のその余の抗弁について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がなく、これを棄却すべきところ、これと結論を異にする主文第一項掲記の手形判決(なお、この手形判決は「判決」と表示されているが、「手形判決」の誤記であることは明らかである。)を取消し、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 矢部紀子 裁判官 富岡英次 裁判官片野悟好は転勤のため署名押印できない。裁判長裁判官 矢部紀子)

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